短編小説

【ひよこ日和】
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今日、小さなひよこが生まれました


弱々しくて、可愛いというよりも、この小さな命を守ってあげたいと思いました


T´作
【ひよこ日和】


あの日は傘がいらないくらいの小雨でした。私は赤い傘をさして、片思いの彼の
バイト先へ行きました。
そして、思いがけないものを見てしまいました。そこには、同じバイト先の人と
楽しそうにはしゃぐ彼の姿…。
私は振られたような気分になりました。ただ、それだけの事なのに、私は羨まし
くて、恨めしくて、目を塞いで、走って帰りました。


小雨の雨粒も目立たなくなった先、私はダンボールに包まれた小さな卵を見つけ
ました。手にとってみると、暖かったです。ダンボールに犬や猫が捨ててあるの
は見たことがありますが、まだ卵…生まれてもいない命を捨てている人がいる。
私は不思議な感覚に包まれました。
気がついたら、私は卵を持って帰っていました。


大事にするからね…


そう囁いて、この子に似合う小さな綿のベッドにそっと置きました。

つついたり、なでたり、息を吹きかけたり、私なりに可愛がりました。小さな命
はまだ姿を表しません。

私はこの子の名前を考えました。まだ産まれてもいないのに。

そんなことをしては、心の内を抑えようと、抑えようしました。


私は不器用です


結局は私が彼に対して何も言えなかったから、彼が違う人に想いを寄せてしまっ
ただけのことだったのに、私は運命だとか、見えないもののせいにばかりしてい
たんです。


想うだけで、願うだけで叶う恋があるのなら…

私は今頃どんな顔で笑っているのでしょう


恋をすると人はなぜこんなに弱くなるのでしょう?


あなたは今何をしていますか?


私をどう思ってますか?


あの女の人とはどんな関係なんですか?


小粒の雨は、またしんしんと窓の外を彩りました。窓からの景色と同時に、ケー
タイを握りしめている私の姿が見えました。


メールのひとつだって送りきれない私の惨めな姿…


友達はみんな言います。告ればいいとか、待ってたって何も始まらないとか。だ
けど、そんな勇気なんかない。自分に自信がない…。悲しいほど臆病な裏側の私
が見えてしまう。


可愛いたまごを拾ってから、1日が経ちました。今日はとてもよい天気。このた
まごは、まだ暖かみを帯びながら、じっとしています。


私はあったかいココアを飲みながら、またあなたの事を考えました。




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